修理工場と保険会社の間で話しあい、修理費の合意を計ることを保険協定と言います。一説によれば、車体整備業売上全体の70%以上が保険絡みとも聞きます。修理工場にとって保険協定は日常であり、保険会社とは切っても切れない関係です。ならばこの関係を健全な方向に発展させるべきというのが私の持論ですが、これに対して真っ向から反対する考え方があります。修理契約と保険契約は別契約であり、修理工場と損保の間には何の関係も無い。故に話しあう必要も無いという考えです。

 これは一理あるように聞こえますが、誤解の上に成り立った考えです。修理工場と保険会社は修理費をめぐる当事者として、両者間には債権債務関係が発生しています。先ず保険会社側から説明しますと、保険会社はカーオーナーと保険契約を結ぶことで、カーオーナーの債務を担保する最終的な債務者として、修理費に対する当事者性が発生します。次に修理工場側ですが、カーオーナーと修理契約を結ぶ中で、カーオーナーから修理費を保険金で対応したいとの委任を受けることによって、最終的な債権者として、修理費に対する当事者性が発生します。この考え方の根拠となるのが民法第537条です。

(第三者のためにする契約)
第537条
1.契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2.前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
3.第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。

 自動車鈑金塗装には保険制度が絡んでくるので分かり辛いですが、請求金額と顧客に与える満足感が一致していなければ、顧客が離れていきます。請求金額以上の満足感を顧客に与えた時から、顧客が支持してくれます。仕事は次から次にやってきます。暇になる方が難しい。顧客の満足感は、必ずしも製造原価と比例しません。

 民法民法第537条を私なりに意訳しますと、下記のようになります。

1.保険契約により当事者の一方である保険契約者が修理工場に対してある給付、つまり修理代金を保険金で支払うことを約したときは、その修理工場は保険会社に対して直接にその保険金を請求する権利を有する。

2.前項の保険契約は、その成立の時に修理工場が現に存しない場合又は修理工場が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。

3.第一項の場合において、修理工場の権利は、その修理工場が保険会社に対して同項の契約の利益を享受する意思、つまり保険会社に対しての見積或いは請求を表示した時に発生する。

修理工場と保険会社は、修理費をめぐる当事者としての債権債務関係にあり、修理費について話し合い合意を得る、つまり協定作業をおこなう必要があります。そして当事者同士で話しあうわけですから、説明責任は双方に求められます。修理工場は請求の根拠や理由を説明します。その請求に応じない場合は、保険会社も根拠や理由を説明する責任があります。現状の協定における最大の問題点は、双方向に同等に求められるはずの説明責任が、修理工場に対してのみ強く求められることです。修理工場と保険会社の力関係が、そのまま協定に反映されているのが現状です。